寓話、馬鹿正直四、村の危機

※連絡事項、今回が寓話の最終話です。長いことダークサイドすみませんでした🙇

村長と呼ばれるようになってから、
しばらくのあいだ、村は静かであった。

不満はあった。
文句もあった。

それでも、
決まらぬまま崩れていくよりは、
ましであった。

村の周辺では、
ながく日照りが続いていた。

ある日、
隣村から人が来た。

顔色は悪く、
声は荒れていた。

「蝗が出た」
「畑がやられた」
「このままでは、冬を越せぬ」

噂は、ほどなく広がった。

蝗は、境を知らぬ。
どの村のものでもなく、
どの言い分にも従わぬ。

村人たちは言った。

「うちには来ぬだろう」
「風向きが違う」
「考えすぎだ」

だが同時に、
別の声もあがった。

「もし来たらどうする」
「今のうちに備えるべきだ」
「隣村を助ける余裕はあるのか」

意見は分かれた。

分けるべきだと言う者。
守るべきだと言う者。

どちらも、
それぞれに正しいと思っていた。

視線は、
やがて一人に集まった。

村長であった。

「決めてほしい」
「どうするのがよい」
「間違えぬようにしてくれ」

村長は、黙っていた。

蝗に、言葉は通じぬ。
隣村の怒りも、無視はできぬ。

助ければ、備えが減る。
助けねば、争いが起きるやもしれぬ。

隣の家の幼馴染は言った。

「決めれば、恨まれる」
「どちらにしても、文句は出る」

長い間、雨は降らなかった。

日照りは、続いていた。
川は細り、
井戸の底が見え始めていた。

水は、
誰の味方でもなかった。

その夜、村長は眠れなかった。

翌朝、
村長は人々を集めた。

「すべては守れぬ」

そう言ってから、話し始めた。

隣村には、期限を決めて水と穀物を分ける。
同時に、畑には防ぎを施す。
川の水は、使い道を限る。

声があがった。

「それでは足りぬ」
「恨まれる」
「損をする」

村長は、言い返さなかった。

ただ、こう言った。

「よりよい案があれば、聞く」
「だが、決めぬままでは、
 蝗も水も待たぬ」

沈黙が落ちた。

完全な案は、出なかった。

ゆえに、
その案が行われた。

数日後、
蝗はこの村にも現れた。

畑は荒らされ、
怒声があがった。

隣村からは、
感謝と不満とが、
混じり合った言葉が届いた。

誰も、村長を褒めなかった。

それでも、
争いは起きなかった。
村は、壊れなかった。

夜。
村長はひとり、
干上がりかけた川を見ていた。

かつては、
信じていれば軽かった。
疑わねば、考えずに済んだ。

だが今は違う。

自然も、
外の村も、
人の正しさも、
何ひとつ保証しない。

それでも、
決めねばならぬときがある。

村長は、
それを誇りとは思わなかった。

ただ、
引き受けたのだと思った。

それだけで、
すでに重かった。

投稿者: King | 天は自らを助くる者を助けるらしい

中卒→偏差値80、介護しながら哲学しつつ、教育関係のバイト&資産運用中。 ミラクルラッキー教団の創始者(?)がネタで考えたメモを置いてます😆 判断と線引きの思考のセーブデータ📝

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