
※連絡事項、馬鹿正直ものが出世します。読んでみてください。
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その年の終わり頃、
長く村をまとめてきた村長が、病に倒れた。
急なことではなかった。
以前から、体は弱っており、
誰もがどこかで覚悟していた。
それでも、
そのときが来ると、
村には、はっきりとした空白が残った。
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葬いが終わったあと、
村の者たちは集まった。
だが、
次をどうするかについては、
すぐには話が進まなかった。
「大役だからな」
「揉めるのは避けたい」
「誰がやっても、不満は出る」
そんな言葉だけが、
静かに行き交った。
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しばらくして、
誰かが、ぽつりとこぼした。
「……あの者ではないか」
名は出なかった。
だが、
誰のことを指しているのかは、
皆、分かっていた。
かつて、
馬鹿正直と呼ばれていた、その者であった。
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「よく考える」
「欲もなさそうだ」
「前の村長も、話を聞いていた」
理由は、どれも決め手にはならなかった。
だが、
外す理由にもならなかった。
隣の家の幼馴染は、笑いながら言った。
「おぬしがやるのだろう」
「断らぬからな」
「ほかにおらん」
その者は、
集まりの端で、ただ黙っていた。
胸の奥が、
わずかに冷えた。
「お前なら、皆の話を聞くだろう」
「急に変なことはせぬだろう」
「とりあえず、頼む」
その言葉の中で、
「とりあえず」だけが、重く残った。
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引き受けるつもりで来たわけではなかった。
望んだ役目でもなかった。
だが、
ここで断れば、
誰が代わりになるのかは、見えなかった。
その者は、一度だけ口を開いた。
「うまくはできぬかもしれぬ」
「誤ることもある」
村の者たちは、すぐにうなずいた。
「分かっている」
「誰でもそうだ」
「だから、おぬしでよい」
それ以上、言葉は続かなかった。
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その日から、
その者は「村長」と呼ばれるようになった。
呼び名が変わっただけで、
何かがすぐに変わるわけではなかった。
だが、
向けられる目は、確かに変わった。
困りごとがあれば、集まってくる。
決められぬことがあれば、黙って待つ。
期待と、
責めと、
まだ形にならぬ不満とが、
ひとところに向けられた。
その者は知った。
かつては、
断らねばよかった。
だが今は、
決めねば終わらぬ。
その違いは、
思っていたよりも、
はるかに重かった。
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それでも、
その者は退かなかった。
退けば、
この役はまた誰かに渡る。
そして、
同じことが繰り返される。
その者は、
村の中央に立った。
誰かに応えるためでもなく、
誰かを導くためでもなく、
ただ、
決めぬまま崩れていくものを、
これ以上、見たくなかったから。
かつて、馬鹿正直と呼ばれ、
今は、村長と呼ばれるその者は、
その重さを、
静かに受け取った。

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