寓話、馬鹿正直三、むらおさ

※連絡事項、馬鹿正直ものが出世します。読んでみてください。

その年の終わり頃、
長く村をまとめてきた村長が、病に倒れた。

急なことではなかった。

以前から、体は弱っており、
誰もがどこかで覚悟していた。

それでも、
そのときが来ると、
村には、はっきりとした空白が残った。

葬いが終わったあと、
村の者たちは集まった。

だが、
次をどうするかについては、
すぐには話が進まなかった。

「大役だからな」
「揉めるのは避けたい」
「誰がやっても、不満は出る」

そんな言葉だけが、
静かに行き交った。

しばらくして、
誰かが、ぽつりとこぼした。

「……あの者ではないか」

名は出なかった。

だが、
誰のことを指しているのかは、
皆、分かっていた。

かつて、
馬鹿正直と呼ばれていた、その者であった。

「よく考える」
「欲もなさそうだ」
「前の村長も、話を聞いていた」

理由は、どれも決め手にはならなかった。

だが、
外す理由にもならなかった。

隣の家の幼馴染は、笑いながら言った。

「おぬしがやるのだろう」
「断らぬからな」
「ほかにおらん」

その者は、
集まりの端で、ただ黙っていた。

胸の奥が、
わずかに冷えた。

「お前なら、皆の話を聞くだろう」
「急に変なことはせぬだろう」
「とりあえず、頼む」

その言葉の中で、
「とりあえず」だけが、重く残った。

引き受けるつもりで来たわけではなかった。

望んだ役目でもなかった。

だが、
ここで断れば、
誰が代わりになるのかは、見えなかった。

その者は、一度だけ口を開いた。

「うまくはできぬかもしれぬ」
「誤ることもある」

村の者たちは、すぐにうなずいた。

「分かっている」
「誰でもそうだ」
「だから、おぬしでよい」

それ以上、言葉は続かなかった。

その日から、
その者は「村長」と呼ばれるようになった。

呼び名が変わっただけで、
何かがすぐに変わるわけではなかった。

だが、
向けられる目は、確かに変わった。

困りごとがあれば、集まってくる。
決められぬことがあれば、黙って待つ。

期待と、
責めと、
まだ形にならぬ不満とが、
ひとところに向けられた。

その者は知った。

かつては、
断らねばよかった。

だが今は、
決めねば終わらぬ。

その違いは、
思っていたよりも、
はるかに重かった。

それでも、
その者は退かなかった。

退けば、
この役はまた誰かに渡る。

そして、
同じことが繰り返される。

その者は、
村の中央に立った。

誰かに応えるためでもなく、
誰かを導くためでもなく、

ただ、

決めぬまま崩れていくものを、
これ以上、見たくなかったから。

かつて、馬鹿正直と呼ばれ、
今は、村長と呼ばれるその者は、

その重さを、
静かに受け取った。

投稿者: King | 天は自らを助くる者を助けるらしい

中卒→偏差値80、介護しながら哲学しつつ、教育関係のバイト&資産運用中。 ミラクルラッキー教団の創始者(?)がネタで考えたメモを置いてます😆 判断と線引きの思考のセーブデータ📝

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