
※連絡事項、昔書いたものをリライトしたものです。考えさせられる系がお好きな方は読んでみてください。
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むかしむかし、
ある村に、なんでも真に受ける幼子がおった。
その子は、大人の言うことを疑わず、
子供の言うことも疑わなかった。
大人たちは、その様子を見て言った。
「いい子だ」
「素直なのは美徳だ」
子供たちは、その様子を見て笑った。
「やってみろ」
「本当にやるぞ」
幼子は、言われたとおりに動いた。
「ここに宝がある」と言われれば穴を掘り、
「お前のためだ」と言われれば我慢した。
疑うということを、知らなかった。
信じるたびに、褒められたからだ。
隣の家の子はつぶやいた。
「また信じたのか」
「疑うと怒られるもんな」
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やがて幼子は、ひとつのことを覚えた。
大人の言うことは正しく、
子供の言うことは楽しい、ということを。
だからその子は、
言われたことを疑わず、
どちらも信じた。
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月日が流れ、幼子は大人になった。
大人になっても、その者は変わらなかった。
頼まれれば断らず、
誘われれば応じ、
「助かるよ」と言われれば、胸が温かくなった。
誰かの言葉を信じるたびに、
かすかな楽しさがあった。
それは、遠い昔に感じたものと、よく似ていた。
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だがある日、
誰もその者を褒めなくなった。
言うことを聞いても、
信じても、
何も返ってこなかった。
ただ、仕事だけが増えた。
ただ、都合よく呼ばれるだけになった。
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そのとき、その者は気づいた。
胸の奥にあったはずのものが、
どこにも見当たらないことに。
「……いつからだろう」
その者は、ぽつりとつぶやいた。
「いつから、こうなったのだろう」
だが、その問いをどう扱えばよいのか、
その者には分からなかった。
疑うということを、教わらなかったからだ。
信じることだけを、与えられてきたからだ。
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その者は、手の中を見た。
そこには、何もなかった。
いや——
何も疑えぬまま、
信じることだけが残っていた。

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