
※連絡事項、Kingが完璧重責うたれ病を発症中のため、
ダークサイドに堕ちた寓話シリーズを開始します😆
なお回復の見込みは未定です😆
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むかしむかし、
ある村に山登りが好きな若者がおった。
その若者はたくさんの山々に登ったが、
よくある山に登るのは、正直に言って飽きてきていた。
それゆえ若者は、
「登った者は誰一人生きて帰ってこん」と言われる、
とても高い山に登ることを決めた。
若者は入念に準備をした。
必ず生きて帰るために。
しかし村の長老は、それを強く止めた。
「あの山にはな、魔物が巣くっておる」
若者は笑った。
「わしは今まで、どんな山からも帰ってきた。
魔物などおるものか」
長老は首を振り、静かに言った。
「……山におるのではない。
魔物は——登った者の中に棲みつくのじゃ」
若者はその言葉の意味を、深く考えなかった。
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若者は山へ向かった。
その山は、これまで登ってきたどの山よりも高く、
どこまでも険しかった。
何日も、何十日もかけて、
若者はついに山頂へとたどり着いた。
そこには、何もなかった。
魔物の姿も、気配もない。
ただ、世界のすべてを見下ろす景色だけが広がっていた。
若者は笑った。
「やはりな。魔物などおらんかったわ」
その瞬間だった。
胸の奥から、なにかが静かに膨らんできた。
——ここまで来られるのは、自分だけだ。
——自分は特別なのだ。
その思いは、次第に強く、重く、甘くなっていった。
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やがて若者は山を下りた。
たしかに、生きて帰ってきた。
しかし村の者たちは、どこか違和感を覚えた。
若者は以前のように笑わなくなり、
人の話を聞かなくなり、
いつもどこか遠くを見ていた。
誰かが話しかけても、若者はこう言うばかりだった。
「おぬしらには分からん。
あの頂の景色は、登った者にしかな」
村の中におっても、
若者にはどこか現実味がなかった。
山を下りて村に戻ってからも、
若者にはすべてが小さく見えた。
家も、人も、
そこで交わされる言葉さえも。
若者は思った。
「こんな場所に、わしはおったのか」と。
そして若者は、また山へ向かった。
今度は誰にも何も告げずに。
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それきり、若者が村に戻ることはなかった。
村の者たちは言った。
「やはり魔物にやられたのだ」と。
長老は、ただ静かにうなずいた。
「うむ。たしかに生きては帰ってきた。
だが、あれはもう——元のあの者ではない」
そして長老は、集まった若い衆に言った。
「あの山の魔物とはな、
命を奪うものではない」
「人の心を、少しずつ変えてしまうものじゃ」
「気づいたときには、もう元には戻れぬ」
長老は遠くの山を見つめ、最後にこう言った。
「さて……次は、誰が登るのかのう」
その場にいた若い衆の中で、
ひとりだけ、山の方を見ている者がおった。

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